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Online publication January 14, 2011
脈管学第50 巻記念 特別寄稿
Lumbricus rubellus(赤ミミズ)の酵素による血栓溶解作用
美原 恒
(1)はじめに
1,50 年前,著者はインターンを終了し,慶應義塾大学医
学部生理学教室に入局,恩師である林髞教授の下で研究
をはじめた。第1 回脈管学会は,林髞教授の主催であっ
たため,著者の最初の学会出席が脈管学会となった。脈
管学会は年とともに発展して大きくなり,大きなホテル
で行われるようになったが,第1 回は慶應義塾大学医学
部の解剖学と生理学の講義に使われる講堂で行われた。


2,著者はその後,慶應の助教授から神戸医科大学(現神戸
大学医学部)の生理学教授に転任された岡本彰祐教授の下
に行くこととなったが,第8 回脈管学会はその岡本教授
の主催となり,著者が学会責任者として準備を行った。
その功で脈管学会理事に任命された。

3,著者自身が宮崎医科大学教授に就任した後,神戸大
学医学部の楢林和之放射線科教授が第16 回の脈管学会
を主催されることとなり,第8 回脈管学会での経験を買
われて楢林教授の要請で学会のお手伝いをした。
 このように,私にとって最も思い出深い学会が日本脈
管学会である。

4,ところで,私の主たる研究テーマは脳血管障害の凝
固・線溶系に関するものである。当時,このテーマの報告
は脈管学会が一番適切な発表場所であったが,その後,
新たに脳卒中学会や血栓・止血学会が発足したので,
脈管学会での脳血管障害や凝固・線溶に関する発表は
少なくなった。著者も脈管学会での発表は比較的少なく
なった。

5,そこで,この脈管学50 周年記念論文として,
私がライフワークとして行ってきた,抗血栓症食として
線溶活性を上昇させる食材の研究と食用ミミズとして養
殖されているLumbricus rubellus (赤ミミズ)の経口投与に
よる血栓溶解作用について述べることにする

(2)研究の背景
1,恩師林髞教授の命令で神戸医科大学に赴任した当時,
岡本彰祐教授が世界初の線溶酵素抑制物質イプシロン・
アミノカプロン酸を発見し,その臨床応用が始められた。
そこで,まだ凝固・線溶系の研究があまりなされていな
かった脳卒中の分野で,線溶活性の研究を兄の美原博と
ともに始めた。当時はCTもMRI もない時代で,脳卒中の
患者が出たと聞けばそこへ駆けつけて診断・治療を行い,
同時に脳卒中患者の線溶活性を測定した。死亡した症例
は,すべて病理解剖を行った。その結果,発症24 時間
以内の脳卒中で,脳出血では線溶亢進が起っており,逆
に脳梗塞では線溶活性が低下していることを発見し報告
した1)。

2,さらに,その後,岡本教授により,さらに強力な
線溶酵素抑制物質であるトラネキサム酸が発見された。
このトラネキサム酸が脳出血に効果があることを動物実
験で証明し発表した2, 3)。そのような背景もあり,神戸時
代は,もっぱら脳出血と線溶系の研究を行い発表した。

3,1975 年,著者は宮崎医科大学の創設とともに,生理
学講座の初代教授として赴任した。その頃すでに,高血
圧に対する治療とも相俟って脳出血の死亡率は低下しつつ
あった。そこで宮崎に移ってからは,血栓症に対する血栓
溶解療法の研究に移った。最初は,血栓溶解剤として販
売されていた線溶活性物質ウロキナーゼの利用方法につい
て研究を行った。

4,その結果を発表したところ,各地の開業医がこの方法は
効果があると言い出し,ウロキナーゼの使用量は増大した。
当時,ウロキナーゼは尿から抽出する高価な薬剤であり,
一人の脳梗塞患者に使うウロキナーゼの価格は約100 万円
におよんだ。その結果,著者は各地の医療基金に再々呼び
出されては,確かに貴方の投与方法は効果があると認めるが,
あまりにも高価なので何とかもっと安価な方法を開発して
欲しい,と要請された。

5,そこで著者は,日常食べたり飲んだりするものの食材
の中に,線溶活性を上昇させる物質が含まれていないかに
ついて研究を始めた。まず,学生実習で種々のアルコー
ル飲料を飲ませて,その際の血中線溶活性を測定した。
その結果,宮崎など南九州でよく飲まれている本格焼酎
を飲むと血中線溶活性が上がることを発見し報告した。
焼酎に含まれる味やコクといった成分が内皮細胞からウ
ロキナーゼを分泌させるものと考えられた。さらに納豆に
も血中線溶活性を上昇させる効果があることを報告した。
その後,共同研究者らが納豆から線溶酵素を抽出し,
ナットウキナーゼと命名した。しかし,これらの持つ線溶
活性は血栓溶解を行うには十分とは言えないと思われた。

(3)ミミズ線溶酵素の発見
1,著者は1975 年,新設された宮崎医科大学に教授とし
て赴任すると同時に,動物実験施設長と建築委員長を兼
任することになった。動物実験施設からは毎日大量の動
物の糞便が排出される。それらには動物の毛が大量に含
まれているため,排泄物をそのまま排水処理施設に流す
と処理施設の装置が損傷されることが判った。そこでこ
れらの排泄物をフィルターに掛けて濾過した液体部分の
みを処理施設に送ることにした。その結果,排泄物の固
形部分は残ってしまうことが判った。この固形部分の処理
について,行政当局は焼却処理をするようにと言ってきた
が,焼却処理に必要な重油の量を実験によって確かめて計
算した結果,重油代が年間300 万円要することが判明した。
面白いことに,宮崎医大動物実験施設に文部省から来る
年間予算がちょうど300 万円であった。施設の排泄物処
理だけで年間予算を消費するわけにもいかず,四苦八苦し
ていたところ,偶々,当時宮崎で種々の廃棄物処理にアメ
リカ産の赤ミミズ(Lumbricus rubellus)が利用されている
ことを知った。そこで,このミミズを使って動物施設の
排泄物を食べさせようと試みたところ,よく食べることが
判った。そこで,施設の裏にビニールハウスを造り,ミミ
ズによって排泄物の処理を行うことにした。その結果,
動物実験施設の排泄物処理問題は解決したが,増えるミ
ミズを如何に処理したらよいかが新たに問題となった。

2,ある日著者は,このミミズで自身の研究主題である線溶
を確認してみた。線溶酵素測定に用いているフィブリン
平板にミミズを切断して載せたところ,ミミズの体液に
線溶酵素が存在することが判明した。そこで,この線溶
酵素について化学的に追求することにした。まず,ミミ
ズの皮の部分に線溶酵素の抑制物質があることが判った
ので,皮の部分を取り除いた内臓部分の凍結乾燥粉末を
作り,これを実験用サンプルとして種々の研究を進めた。

3,その結果,この線溶酵素は熱に強く,広いpH レンジを
持つ新しい酵素であることが判った。さらに,この酵素
を純化した結果,6 種類の線溶酵素があり,そのうちの
3 種類はキモトリプシン様蛋白分解酵素であり,2 種類
はトリプシン様蛋白分解酵素であることが判った。
1 種類については既存の何れの蛋白分解酵素とも異なり,
新規の蛋白分解酵素であると判った
さらにそれぞれのアミノ酸組成を調べたところ,この線溶酵素は
構造的に非常に丈夫な酵素であることも判明した。
この結果,これら6 種類のアカミミズ線溶酵素を総称して
ルンブロキナーゼと自ら命名して報告した4)。
これらの結果を踏まえ,これ以上の化学的追求は止めて,
アカミミズ粉末の生体応用についての研究を始めた。

4,まず,ラットにアカミミズ粉末を経口投与すると,
投与3 時間後に血中線溶活性の亢進が見られ,その線溶
活性は長時間持続することも判った。これは経口投与によ
り内因性の線溶酵素を分泌させる可能性を示唆していた。
さらにビーグル犬の経口投与実験で,人工的に作成した
血管内フィブリンが4 時間から8 時間で溶解することも
判明した。

5,そこで,著者自身と関係者数人で,この粉末
150 mg を3 年間にわたって1 日3 回服用してみた。その
結果,とくに身体的に問題もなく,副作用らしきものも見
られなかった。また,服み方についても種々試み,乾燥
粉末をカプセル詰めにすれば服みやすいことも判った。

6,そこで教室員6 人(28~39 歳)と著者自身が乾燥粉末
200 mg をカプセルに封入し,17 日間,毎日食後3 回カプ
セルを服み,その血中線溶系因子を投与前,投与後1,
2,4,8,11,17 日に測定をすることにした。その結果,
教室員6 人の血中線溶活性は服用翌日から亢進するとと
もに,Fig. 1 に示すごとくt-PA 抗原量が上昇した。これ
はアカミミズ乾燥粉末そのものの線溶活性の他,内因性
のt-PA が放出されたことを示している。

7,さらに驚いたことは,Fig. 2 に示すごとく,教室員6 人
から血管内フィブリンが溶解したことを示すフィブリン分解産物(FDP)
が投与翌日に上昇したことであった。投与後,徐々に
FDP 量は減少して,17 日目には検出されなくなった。
これは,6 人の血管内にフィブリンが存在していたが,
アカミミズ粉末の投与で分解されたものと考えざるを得ない。
アカミミズ粉末投与により血管内フィブリンは徐々に除
去されて,17 日目には完全に血管内フィブリンが除去さ
れたものと思われた。

8,これら6 人の血液検査に対して,
著者自身の血液は,6 人の教室員と異なりFDP の上昇は
さほど見られなかった。前述の如く,数年前からアカミミズ
粉末を服用していた結果,実験前からt-PA 抗原量
が多かったため,著者の体内には血中線溶活性が充分に
あり,血管内にフィブリンは存在していなかったと考え
られた5)。
その後さらに研究を進めた結果,20 歳前後の
健康な人間にアカミミズ粉末を経口投与してもFDP の上
昇は見られず,25 歳を過ぎたころからFDP が出現する
ことが判った。

9,すでに線溶系の研究者により,25 歳を過ぎると
何らかの血管内血栓が出来始める可能性があると
指摘されていたので,そのことを裏付ける結果となった。
また,実際に『25 歳はお肌の曲り角』という言葉もあり,
皮膚血流にも線溶系が関係していることを伺わせた。
 その後,著者らのミミズ研究は,新聞やテレビで発表
された。また,中国の人民日報にも掲載され,中国各地
から詳細を知らせて欲しいという手紙が沢山来た。

10,その中にハルピン師範大学の研究者からの手紙があった。
その方の家に代々伝承されているミミズ粉末作成法を用い
て500 人の脳血栓症患者に投与した結果,70%に改善
効果があったと知らせて来た。

11,また,韓国のソウル大学
の李文鎬内科教授との共同研究で,糖尿病に効果があ
る可能性も示唆された。そこで数人のII 型糖尿病の方に
飲んでもらったところ,境界型糖尿病と言われる方の血
糖値が,服用後には低めに抑えられる効果が見られた。

12,また,男性のポテンツが上がったという報告や,女性が
閉経後でもミミズ服用で月経が起ったという話を聞いた。

13,今までホルモン分泌が低下するのは老化によるホルモン
臓器の疲弊と思われてきたが,実はホルモン臓器への微
小循環系に血栓が出来て血流が低下した結果,ホルモン
産生が出来なくなったという可能性もあるのではないか
とも考えられた。微小循環の血栓をミミズ粉末により溶
解することで,ホルモン産生が復活するものと思われた。

14,次に,ミミズの医療への応用を検討した。大正年間に,
東大の田中伴吉,額田晋によりミミズの皮部分より解熱
作用を持つ物質が同定され,ルンブロフェブリンと命名
して報告されている6)。
著者の発見したミミズ線溶酵素
はミミズの内臓に存在するもので,ミミズの皮には前述
のように線溶抑制物質が存在しているため,著者の発見
した血栓溶解作用を持つ線溶酵素は,解熱剤としてミミズ
の皮から抽出されたルンブロフェブリンとは別物である。
しかしながら,過去の文献でミミズの薬理作用を調べた
結果,宋時代に中国で出版された『重修政和証類本草』と
いう本の中に,すでに地球上から紛失された『日華子』と
いう書物に『ミミズは中風を治す』と書かれていることを
発見した。中風とは脳卒中のことであり,脳卒中とは脳
梗塞のことも含んでいる。ミミズが脳卒中に対する効果
のある物質を含んでいることは,著者の研究が現代医学
的に解明したことになる。

15,それらの結果を総括し,血栓症予防にアカミミズ粉末が
使えるのではないかと考えた。現在,心筋梗塞や脳梗塞の
発症後,治療およびその再発予防に使われている薬剤は,
血小板凝集抑制作用を持つものか凝固抑制作用を持つも
のがほとんどである。

16,生理学的に凝固・線溶系を考えて
みると,血管が障害されて出血した場合,最初に血小板の
凝集により一次止血が起り止血をする。さらにその部位に
凝固が起り,そのフィブリン塊を足場にして血管の修復が
行われ止血が完了する。しかし,そこにはフィブリンが
残っており血流を途絶している。このフィブリンを溶解
するために線溶系が発動されて線維素溶解が起り血流を
再開させるのである。こう考えてくると,血小板凝集抑
制剤や凝固抑制剤はヒトのもつ生体防御作用を阻害して
治療する薬剤と言えよう。事実,血小板凝集抑制剤や凝
固抑制剤の投与時には,出血傾向になっていないかを常に
チェックしていなければならない。

17,その点,線溶は余分なフィブリンを除去するのであるから,
生体の防御作用を阻害することにはならない。
また現在,線溶活性剤として用いられている薬剤は,
u-PA(ウロキナーゼ)またはt-PAのような静注剤だけである。

18,その点,ミミズ粉末は経口投与
によって線溶活性効果があるので利便性に優れ,利用価値
は高いと考えた。これらの結果を踏まえて,アカミミズ粉
末をサプリメントとして血栓予防に役に立てようと考えた。

19,実際にサプリメントとして,このアカミミズ粉末が発
売されることとなった。その結果,多くの人に愛用され
るとともに,多くの使用経験が寄せられた。

20,まず,最初に報告されたのは前述のポテンツが
上がったという経験である。多くの男性が著者のところ
に来て,耳元で『有難うございます』と囁くのは,
皆その話であった。女性で多かったのは,冷え症が
解消されたという報告である。冷え性と呼ばれる症状には,
種々の原因があると思うが,
その中に末梢血管の血栓による循環不全で起るものがあ
り,それには効果があっても不思議ではないと考えた。

21,また,興味を引いたのは視力が良くなったという報告で
ある。実は,著者は現在78 歳であるが,普段新聞など
を読む時にも老眼鏡なしで読んでいる。『本当に読める
のですか』と不思議そうに尋ねてくる人がいるが,次に
『若い時は近眼だったのでしょう』と多くの人が言う。そ
こで自動車免許証を出して,どこにも眼鏡使用と書かれ
ていないことを示す。著者は,これは遺伝的なものだろ
うと思っていたが,多くの人からミミズを服んで目が良く
なったと聞くと,どうも著者が老眼にならないのは50 代
からミミズを服んでいたためではないかと思うように
なった。

22,その他にも耳鳴りが治ったという話や肩こりが
良くなったという話もある。アトピー性皮膚炎の症状が
なくなったという例もあった。このような不思議とも思える
症状改善の話には事欠かないが,これらのことを考察す
ると,病気とも言えない多くの日常的な身体障害の中に,
末梢血管の血栓が原因で微小循環不全が起こっている
例は少なくないのではないかと考えられた。

23,現在,日本の保険医療では薬剤による予防は出来ない
ことになっている。しかし,血栓症は国民的に重篤な病
気であり,死因ともなるが,死なないまでもその後に大
変な後遺症を残しかねない病気である。また,血栓症で
はなくても,加齢とともに血管内にフィブリン沈着が起きて
様々な身体障害を起こしていることは多いと考えられる。
常に血管内の血栓そのものであるフィブリンを除去し,
微小循環を改善させておくことは,全ての疾患の予防と
なり,大変重要と考えられる。

24,そのような意味で,アカミミズのサプリメントを作った
が,保険医療の下で広めていくことは大変困難なのが現
状である。とはいえ,質の高いサプリメントがきちんと
広まれば,本当の予防食材として多くの高い効果をもたら
すものと期待している。現在も臨床応用に向けた研究は
続けており,この論文を読んで興味のある方がいれば,
ぜひご連絡いただきたい。

25,著者は,血液生理学者の立場から,薬だけでなく日常
の食材から血栓症を予防することをこれまで提唱し,
様々な研究を行ってきた。これからも,医療を治療と予
防の両面からとらえ,人々に貢献できる仕事を続けるこ
とが,研究者としての使命だと感じている。

<文 献>
1) Mihara H, Takatama M, Yoshida Y, Mihara H: Studies on
variation in plasmin (blood fibrinolysin) activity in cases
with apoplectic disease. Keio J Med, 1962, 11: 145–153.
2) Mihara H, Fujii T, Okamoto S: Fibrinolytic activity of cerebrospinal
fluid and the development of artificial cerebral haematomas
in dogs. Thromb Diath Haemorrh, 1969, 21: 294–303.
3) 美原 恒:実験的脳出血(血腫)の進展と線溶系.脈管学,
1969,9:165–168.
4) Mihara H, Sumi H, Yoneta T et al: Novel fibrinolytic enzymes
extracted from the earthworm Lumbricus rubellus. Jpn J
Physiol, 1991, 41: 461–472.
5) Mihara H, Sumi H, Mizumoto H et al: Oral administration
of earthworm powder as possible thrombolytic therapy. In:
Tanaka K ed. Recent Advances in Thrombosis and Fibrinolysis.
Academic Press, Tokyo, 1991, 287–298.
6) 田中伴吉,額田 晋:蚯蚓・解熱作用及ビ其有効成分ニツ
キテ.東京医学会雑誌,1915,29:221–251.
  Online publication January 14, 2010
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